The story
こんにちは、ナビゲーターのアブシャです。今、あなたの目の前には、まるで地面が呼吸しているかのような、真っ白な湯けむりが立ち込めています。ここは別府八湯の中でも特に異彩を放つ場所、鉄輪温泉。
そして今あなたが歩いているのが、その中心部である「鉄輪銀座通り」です。 足元を見てください。側溝の隙間から、絶え間なく蒸気が噴き出していますね。
この町では、どこへ行っても微かな硫黄の香りと、地球の鼓動のような低い地鳴りが聞こえてきます。かつてここは「地獄」と呼ばれ、熱泥や噴煙が噴き出す、人々が近づくのを恐れた荒地でした。それを13世紀、鎌倉時代の僧侶・一遍上人が念仏の力で鎮め、湯治場として開いたのが鉄輪の始まりだと言われています。
一遍上人は、荒れ狂うエネルギーを、人々を癒やすための恵みへと変えたのです。 通りを歩き進めると、あちこちから「シューッ」という威勢の良い音が聞こえてくるはずです。これが鉄輪名物「地獄蒸し」の音。
各家庭や宿の軒先には、レンガや石で組まれた「地獄釜」と呼ばれる天然の蒸し器があり、摂氏100度近い温泉蒸気で一気に食材を蒸し上げます。野菜は驚くほど甘みを増し、魚介はふっくらと、余分な油が落ちた肉は最高の状態で仕上がります。温泉成分を含んだ蒸気が、自然の調味料となって素材の味を引き立てるのです。
この通りの魅力は、メインストリートだけではありません。ぜひ、迷路のように入り組んだ細い路地にも迷い込んでみてください。石畳の道、歴史を感じさせる木造の湯治宿、そして地域の人々が大切に守ってきた「貸間」と呼ばれる自炊宿。
鉄輪の人々は、古くからこの地球のエネルギーを暖房や炊事、そして癒やしとして生活に当たり前のように取り入れてきました。 すぐ近くには、一遍上人が開いたとされる「鉄輪むし湯」もあります。石室の中に石菖という薬草を敷き詰め、その上に横たわって温泉蒸気に包まれる。
それはまさに、大地のぬくもりに直接抱かれるような体験です。 さあ、少し立ち止まって、深く息を吸い込んでみてください。頬をなでる湿った温かい風、視界を遮る真っ白なカーテン。
あなたは今、生きた地球の真上に立っています。どこか懐かしく、そして圧倒的な生命力に溢れたこの鉄輪の迷宮を、気の向くままに楽しんでください。お腹が空いたら、あの湯けむりの下にある地獄釜が、あなたを温かく迎えてくれるはずですよ。