The story
石畳が続く美しい街並み、金沢のひがし茶屋街。その中心にひっそりと、しかし確かな風格を持って佇んでいるのが、1820年に建てられたお茶屋、志摩です。ここは江戸時代の姿をそのままに残す、日本でも極めて貴重な茶屋建築であり、現在は国の重要文化財に指定されています。
まずは、その外観を眺めてみてください。二階建ての趣ある建物には、「木虫籠」と呼ばれる美しい格子が取り付けられています。この格子は、外からは中が見えにくく、中からは外の様子がよく見えるという、お茶屋ならではの粋な工夫です。
一歩足を踏み入れれば、そこには江戸時代の華やかな社交界の空気が今も漂っています。磨き抜かれた廊下を歩くときの、かすかな木の音に耳を傾けてみてください。二階へと上がると、そこには当時の旦那衆が芸妓たちの舞や演奏を楽しんだ客間が広がっています。
ここでの注目ポイントは、部屋の中に押し入れが一切ないことです。これは、客を迎え入れる空間に生活感を出さないための徹底した美学によるものです。壁には鮮やかな紅殻色が使われ、金箔をあしらった調度品が、行灯の柔らかい光を反射して幻想的な輝きを放っています。
床の間や釘隠しに至るまで、職人の細やかな技が尽くされているのがわかりますか。 かつてこの場所では、三味線や琴の音色が響き、優雅な舞が披露されていました。志摩には当時使われていた楽器や小道具も展示されており、当時の宴の華やかさを今に伝えています。
中庭の坪庭を眺めれば、限られた空間の中に四季を愛でる日本人の繊細な感性を感じることができるでしょう。 金沢という街が守り続けてきたのは、単なる古い建物ではありません。それは、芸の道を究める心と、客人を最高にもてなすという「一期一会」の精神です。
一通り建物を見学された後は、一階にある「寒村庵」へお立ち寄りください。美しいお庭を眺めながら、点てたばかりのお抹茶と金沢伝統の上生菓子を味わうことができます。静寂の中でいただくお茶は、旅の疲れを癒やすだけでなく、江戸時代から続くこの場所の歴史を深く染み渡らせてくれるはずです。
金沢の歴史が息づくこの志摩で、どうぞゆっくりと、悠久の時の流れを感じてみてください。