The story
こんにちは、アブシャです。今、私たちはモロッコの魂、マラケシュのジャマ・エル・フナ広場に立っています。まずは深く息を吸い込んでみてください。
乾いた空気の中に、スパイスの香りと、数千人の熱気が混じり合っているのを感じられるはずです。この場所は単なる広場ではありません。11世紀に街が誕生して以来、一度も途切れることなく続いてきた「生きた劇場」なのです。
「ジャマ・エル・フナ」という言葉の由来には諸説ありますが、一説には「死者の集会所」を意味します。かつてここでは公開処刑が行われていたという暗い過去もあります。しかし、今あなたの目の前に広がる景色に、その面影はありません。
見上げれば、12世紀に建てられたクトゥビア・モスクの美しいミナレットが、砂漠の空に凛とそびえ立ち、この喧騒を静かに見守っています。 日中の広場は、どこか奇妙で神秘的な雰囲気です。コブラを操る笛の音、着飾った水売りたちのベルの音、そして熟練のヘンナ描きたちが手招きする声。
絞りたてのオレンジジュースの屋台が並び、太陽の光を浴びて宝石のように輝いています。 しかし、この広場が本当の姿を現すのは、太陽がアトラス山脈の向こう側に沈み、空が濃い紫色に染まる頃です。どこからともなく何百もの屋台が姿を現し、広場全体が白い煙に包まれます。
グリルされた肉やスパイスの効いたスープ、ハル・ディールの香りが鼻をくすぐり、あなたの胃袋を誘惑することでしょう。 耳を澄ませてみてください。どこかで輪ができ、笑い声が上がっていませんか。
そこには「ヒカヤ」と呼ばれる伝統的な語り部がいます。アラビアンナイトのような物語を、身振り手振りを交えて語り継ぐ彼らは、文字を持たない時代からこの地の歴史を守ってきました。その隣では、グナワ音楽の重厚なベースと鉄製のカスタネットが、トランス状態へと誘うようなリズムを刻んでいます。
2001年、ユネスコはこの広場を「人類の無形文化遺産」の第一号として認めました。それは、この場所にある建物ではなく、ここで交わされる言葉や音楽、そして人々のエネルギーそのものが、守るべき世界の宝だと確信したからです。 さあ、恐れずに人混みの中へと進んでみてください。
客引きに声をかけられ、迷子になるのもこの広場の楽しみ方です。あなたの五感を研ぎ澄ませ、この千年のカオスの一部になってみましょう。マラケシュの鼓動は、今、あなたのすぐ隣で打ち鳴らされています。